ここは本格的な竹とんぼを作るためのページです。良く飛ぶ竹とんぼは、軽く、慣性が大きく、そしてバランスが取れていることが大切です。
バランスを取るための理論は”天秤つり合いの法則”です。しかしこれだけで説明できない場面もあります。これを含めて説明します。
竹とんぼのバランス調整は、竹の素材の選定、型紙つくり、など最初のステップから大きく影響します。そして、製作の要所要所でバランスを取り、確認しながら翼を削ります。このため、バランスを取るための道具が必須です。
ここでは翼の空気抵抗に起因する飛行中のバランスの崩れの検討は除外します。
…… ちょっと一言 ……
私がお世話になっている、竹とんぼの工房”竹生庵”の皆さんから教わったことを含め、できるだけ基本的なことから記述します。主な理論は小学校の参考書に載っている天秤つり合いの法則と子供の遊戯シーソーの原理です。
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図1 <ステップ1> 簡易バランス調整器
写真はイベントや子供達を相手にする時など、翼を大まかに削る時に、また精度をあまり要求されない時に使用します。
どちらも100円ショップで購入したもので、ガラス板にサンドペーパーを置き、軸と接触する面を擦り、滑らかに平面を出します。
子供達には翼を水平にバランスさせると、翼の左右の重さが同じになり、良く飛ぶ竹とんぼになると説明しますが、正確にはこれは間違っている場合もあります。左右の重さが違ってもバランスが取れて水平になることも多いからです。
図2 <ステップ2> 筆記用具、測定器具と製作手順
私のよく使う用具類を参考に示します。: 図のコンパスは針の先端を3.0φ㎜に交換し、円錐形に削ってある。また、回転軸を蝶ネジで固定。右端から、製図用0.05顔料インクペン、先端が硬質鋼のケガキ用針、シャープペン、これらはコンパスに取り付けて使用。
コンパスの下にある部品はコンパスに取り付けて、翼に一定角度で直線を引くためのもの。厚みゲージ、真ん中が”0”と柔らかい素材の定規、0.01g単位の電子重量計等
***次の図3以降は一般的な製作手順であって、これ以外の方法もあります。***
図3 型紙の作成
設計した翼の形を紙に印刷し、型紙を作る。型紙はケント紙が使いやすい(厚紙もある)、これを竹板に細ペンでなぞる。印刷した薄紙の型紙を、竹板に張り付ける場合もある。穴は皮用ポンチで開ける。
図4 翼型を竹板に転写
竹の素材は節に近い所や、しなっている箇所は避ける。カンナで仕上げ、均一な厚さにする。軸穴をあけてから、軸穴と型紙の穴を一致させ、竹の繊維方向と、型紙の横線を合わせ、翼型を転写する。型紙が翼の片側のみの時は、中心横線が直線になるようにし、翼長を左右正確に合わせる。
図5 型線に沿って削る、
竹板の型翼線に沿って糸鋸で概略カットし、万力で挟み、ナイフで型翼線に沿って削る
図6 仕上げ
荒~並みの金やすりで仕上げる。仕上げ面は翼の表面と直角にする。
図7 電動ドリルで楽をする
最近は、回転砥石にサンドペーパーを貼り、これを固定した電動ドリルで回して仕上げている。金やすりは修正用に使用。
図8 仕上がった翼素材
軸の中心は必ず翼の中心にする。軸の穴位置が、目視でも中心からズレている場合、労多くして成果の少ないトンボとなる。
図9 水平方向の長さ測定。
左右の翼の寸法が、同じか否かを確認する。ノギスの測定位置を一定にする。(例)
図10 幅方向の測定(例)
コンパスで幅方向の測定位置を決める。
図11 幅方向の測定(例)
数カ所測定し、左右の寸法が同じであることを確認する。尚、加工後、翼全体の平面がしなっている場合もあるので、平面であることも確認する。
図12<ステップ3> 翼の削りだしのための道具
ここからは翼の削りだしのステップですが、削る方法は人により千差万別のため省略します。削るための道具もいろいろあり、写真は私の使用している道具の一部です。
左から小定盤と低粘性瞬間接着剤、目立てヤスリで作った両刃ナイフ、中央の切り出しナイフは貴重品で、土屋さんから頂いたsandvik社製の材で作ったもの、切れ味と耐久性が抜群、その左が自作した剣状のスクラッパーナイフ。この他にもいくつかの刃物や、クラフト用ノコなどがあります。道具を集めるのも楽しみの一つ。
図13 <ステップ4> バランス調整方法
***バランスの調整方法は人により異なることもあり、ここでの説明は一例です。***:説明のために、翼をA~Dの4つに分ける。例として重心(黒丸)が下側とする。(写真ではAとD、BとCの形状が違うが、実際は同じで、撮影の角度で歪んで見えるため)
① 最初は翼の板厚分布を見ながら、また水平バランスを見ながら左右が均一になるように削り、修正する。
②図では左のAC側が重いのでAC側を削り水平にする。**理論的な説明は図20以降に説明する。**
図14 バランスした状態
AC側を削りバランスした状態。重心位置(黒丸)は水平線の下にある。
図15 上下反転位置のバランス調整
翼を上下反転させ、重い方を削る。図ではACが重いのでAC内を削りバランスさせる。そして数回繰り返し、図14に戻り、バランスさせる。図14、15共バランスが取れたら、次へ。
図16 垂直のバランス
翼を垂直にして、図に示すように、ACを上にして回転方向をチェックする。図はCの方向に回転している。
図17 垂直のバランス
次にBDを上にして、同じようにチェックする。矢印のDの方向に回転したら”C”と”D”を少しづつ削り、両方共、中央に静止するまで修正する。
この修正は図14と反転した状態のバランスに影響はしないが、時折、図14と反転状態でチェックする。もし変化した場合は左右の削り量が正しくないか、または翼形が異なるため。尚、CとDを削りすぎると最初に戻るので注意。回転の矢の向きに注意。
図18 バランスの確認
図17まで修正が終わると、重心の黒点が軸芯と直線になる。しかし、実際削ってみると、どこかに偏りがあるため、100%の完成度は難しい。
図19 バランスの確認
翼の角度を変えと、少し不安定な動きをする箇所もあるが、ほぼ自由な角度で静止する。不安定な箇所があるのは、左右の翼の形状が全く同一でないため。実際の作業は図14~17まで合算させ、少し簡略化している。
図20<ステップ5> 天秤のつり合いの法則
<ステップ4>のバランス調整を左図で説明する。
図の赤い点Mac,Mbdは、各々左右の翼の重心位置での重さ、L1,L2は軸の中心から各重心までの”水平”距離。
天秤のつり合いの法則により、バランスが取れた状態では、Mac×L1=Mbd×L2となる。ここでL1=L2、Mac=Mbdでなくとも、Mac×L1=Mbd×L2が成立すれば、重心がずれていてもバランスは取れる。このため、重心は青線のどの位置にあってもバランスする。
しかし本来竹とんぼは左右の翼を同一形状にするため、L1=L2、Mac=Mbd、かつ重心の位置はバランスした水平線上にあるべきもの。
図21 上下反転位置のバランス
図20でバランスすれば、反転してもMac×L1=Mbd×L2が成立するため、バランスして静止する。しかしバランスしても、不安定で、すぐにバランスが崩れる。なぜ?理由は図24のシーソーの原理参照。
図22 垂直位置のバランス
この調整の目的は図21の”左右の重心を、軸芯を通る水平線まで下げる”こと。図21で調整を完了させ、ACを垂直の上位置にした時、そのままバランスするのは難しい。
多くは偏芯状態であり、図16,17のように数回、上下を反転させてバランスさせ、静止すればMac×L21=Mbd×L22となりバランスする(L21=L22=0)。詳細の調整方法は図25<ステップ7>を参照。
図23 傾斜位置のバランス
図22でバランスすれば、Mac×L31=Mbd×L32はある程度成立し、傾斜位置でもバランスする。実際には翼の形状を左右全く同じに作れないので、多少はバランスが狂う。図26のバランス調整器でレール上をゆっくり回転させて動かすと、バランス誤差が大きいと動きがぎごちなくなる。
図24<ステップ6> シーソーの原理
バランスを検討する時、天秤のつり合いの法則の他、もう一つ大切な原則がある。薄い黒線で示したシーソーは左右の重心が支点を通る水平線より上にある。(黒丸)
①薄い黒線のシーソーは水平の位置でバランスしており、この時、Mac×L1=Mbd×L2が成立する。
②シーソーの右側を少し押すと、赤色のように、つり合いのバランスが、簡単に崩れ、回転する。MacとMbdは変化しないが、L1はL11のように長く、反対にL2はL12のように短くなる、このため加速度的にバランスが崩れる。
図25<ステップ7> 垂直方向の偏芯バランス修正
垂直方向の修正は偏芯の修正が主となる。これは赤の重心Mac、Mbdをできるだけ、青の位置に近づけること。すなわちMac×L21=Mbd×L22を成立させながら翼を削り、重心を移動させることとなる。ただし、移動させてバランスしても、重心Mac、Mbdと軸の中心が一直線になることは難しい。
これらの調整を重ねるとL21≒L22≒0、Mac≒Mbdに近くなり、重心はL21(L22)を半径とする円周上に置かれる。すなわち翼の角度に関係なくバランスする。翼の形状が左右同じであればある程、バランスした状態で静止しやすい。
尚、水平方向がバランスしていない時に削ると、よりバランスの誤差が増えることが多い。
図26 精密に水平バランスを取る調整器
常用するバランス調整器です。
感度を上げるため次の対策をしてあります。
(1)軸と接触する部分はカッターの刃を接着した。危険防止のため、切れない程度に刃を砥石等で殺してある。刃の表面は氷の表面のように良く滑る。
(2)2枚のカッターの刃にガラス板を載せ、この面が水平になるように水準器を下の台に接着してある。3本のネジで水平になるように調節可能とした。傾斜の大きさにもよるが、水準器でレベル合わせしないと、翼を付けない状態の軸は重力で回転する。
図 27 調整器用軸
軸は3種類使用している。釣り竿の無垢の穂先、土屋さんから頂いたアルミ合金?そして無垢のカーボン棒(テープ巻きでなく、表面がなめらかなもの)、カーボンは軽く、慣性モーメントが小さいため、敏感すぎることがある。ピアノ線は慣性モーメンが大きいので使用していない。
製作段階に必要とする精度で軸を使い分けている。尚、各軸の表面は#1400位(適当)のサンドペーパーで磨いてある。刃の上に置いた軸を少し押すと、軸はコロコロとスムーズに転がる。
図28 磁石式バランス調整器(1)
私が使っているバランス調整器の一つ。磁石を使い、軸の片側を浮かせる方式。軸の鉄に均等に磁力が働かず、特に軽量の翼で、繰り返しの誤差が出やすい。また磁石は強すぎてもうまくいかない。
磁石の形状や種類を変えると性能が大きく変わり、良くなると思われる。軸のギャップを可変できるように調整ネジを付けてある。使う人の好みや使い勝手でこの方式を採用する人も多い。
図29 磁石式バランス調整器(2)
軽量の翼でも調整可能な磁石式バランス調整器。材はケヤキで一個の無垢材を削りだした一品もの。同じ竹生庵で竹とんぼを削っている仲間の火山さんの作品。
図30 磁石式バランス調整器(3)
調整器に使用するピアノ線を加工した軸。上の軸は先端を旋盤で加工したもの。下は火山さんが作成した軸。この形になるまでには苦労したとのこと。上の軸は軽い翼の時に誤差を生じる時がある。軸の磁気を消磁気で消して試したが、すぐに元に戻ってしまった。
図31 角度測定器
自作品です。分度器面と直角に直角板(定規)を張り付けたものです。大きめの分度器を使えば、かなりの精度まで測れます。
図32 翼端角の測定
図33 任意の位置の測定
直角板に下駄をはかせれば、任意の位置の角度が測れます。